一人旅おやじがゆく

旅することが人生の最大の喜びである旅好きが、各地で見たもの感じたことを淡々と記します。

お上りさんが見る東京はやはりすごい

 東京・紀尾井町ホテルニューオータニに泊まった。お上りさんにはちょっと豪華過ぎるかと最初思ったが、ツアー料金はそう高くなかった。

 ずーっと以前からの一流ホテルだ。あの湾曲した建物はよくテレビでも見るし、映画「男はつらいよ」の第1作目でさくらが見合いをしたのもこのホテルだった。政治絡みのパーティーもよく開かれているようである。

 東京には学生時代4年間暮らしたし、娘2人も東京の大学に通った関係で、東京の地理には詳しいつもりだったが、赤坂から紀尾井町にかけてはずっと縁がなく、訪ねる機会もほとんどなかった。

 紀尾井町の由緒を聞いて驚いた。紀州徳川家尾張徳川家、井伊家の屋敷があった場所だから頭文字を取ってこの町名になったらしい。品のある町名なのに、なんとなく音の響きに無理があるなと思っていたが、初めて納得がいった。ホテルのすぐ裏には紀尾井坂があり、ここは大久保利通が明治11年、石川県士族の島田某に暗殺された場所だ。明治の初期、おそらくこのあたりは旧大名家や旧旗本の屋敷を流用した役所や明治政府高官たちの屋敷が並んでいたことだろう。内堀と外堀の間、坂が多く、人通りも少なく、暗殺にはうってつけの場所だったに違いない。

 ホテルの部屋は14階だった。目の前に赤坂御用地が広がり、その向こうには新国立競技場や神宮外苑が見える。富士山も遠くに見えた。東京はやはり品格のある場所なんだなと改めて思う。ホテルの中はこれまで見たどこのホテルより〝街〟だった。本屋からギャラリー、洋品店までなんでもある。外人客や結婚式の格好をした人々が結構な数いる。にぎやかだが、うるさくない。みんな品がいい。東京に行くこと自体、非日常を楽しむことになるが、さらにもう一段上の非日常を満喫できる。ディズニーランドのわくわく感と少し似ている。

 朝6時に起きて、妻と散策した。紀尾井坂から青山通りに出て、皇居方面へ。皇居を一周しようかと思ったが、さすがにもたないだろうと、右折して国会議事堂の正面へ。テレビなどではグレーのイメージ。でも実際に目の前にするとベージュに近い。戦前に建てられた近代建築らしく、がちがちとした硬質な印象。やたら触れると擦過傷を負いそうな感じ。裏手の首相官邸には警視庁の警察官たちがこれも硬い表情でじーっと警備している。さぞかし退屈だろうと気の毒になる。

 東京を訪ねるといつも驚くのが、坂の多さだ。思いのほか起伏に富んでいる。国会議事堂は高台の一番上。霞が関などより少しばかり高く、首相官邸の後ろ半分は南西に下る斜面に建っている。さら南西へ下ると赤坂の日枝神社についた。赤坂は谷底に開けた街なのだ。日枝神社には4年前の元日に参拝したので2回目。あの時は1時間ほど並んでやっとお参りできたことを思い出す。東京の人たちの我慢強さに驚かされた。その後、前夜に食事をした中華料理屋の前を通って、アカサカサカスをかすめ、ホテルへ帰った。赤坂からホテルニューオータニは目と鼻の先だった。これも意外だった。

 社会人になって古里に帰り、東京との縁はすっかり薄れた。娘らのアパートを時々訪ねたが、訪問回数から言えば、京都あたりを観光する方がずっと多かったように思う。4年ぶりの今回の上京。東京の中でも特にグレードが高い場所を巡ったせいか、この街は歴史を積み重ねながら、果てることなく成長しているな、というのが正直な感想である。