一人旅おやじがゆく

旅することが人生の最大の喜びである旅好きが、各地で見たもの感じたことを淡々と記します。

絶対地理感とでも言おうか

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米子の城跡から見る中海


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砂の器の舞台・亀嵩


前回は完全に計画をたてた旅を書いたが、実は結構、一人で旅するときは目的地やルートを決めずに出発することが多い。車で巡るときは絶対そうなる。心の底には風の吹くまま旅する寅さんへの憧れがあるのだろう。

ただ自分で言うのも変な話だが、若い頃からの多くの旅の経験から、距離の感覚、時間の感覚、方向感覚、ひっくるめて言えば地理感覚がすっかり研ぎ澄まされてしまっている。だからナビがなくても、道に迷うことはほとんどない。だいたい正しい方向に行ける。

車を運転しながらも「今日の最終目的地は大体あの辺りになりそうだ」「○○を折り返し点にしないと家に帰りつかない」と常に意識している。自由になりきれない小心さもある。頭の中には大雑把な地図があり、時々道の駅などにある案内板であやふやな部分を補強しながら、次へ進む。それゆえ、行き先を決めてないようでいて、実のところ行き先を決めながら旅していることになる。決して寅さんのように風に吹かれて行き当たりばったりに旅しているわけではないのだ。絶対音感を持っている人は常人には想像できない苦労があると聞く。おこがましいかもしれないが、少しばかり似た不自由さを抱えているのかもしれない。ちょっとすごいかな、おれ。

昨年夏の終わり頃、車で中国地方を3泊4日で巡った。休みが取れて、出発の2日前くらいに思い立った旅なので、スケジュールなどなかった。一人で行ける所まで行く旅。とか言いながら、4日間でどの辺りまで行けるかはおおよそ検討はついているのだが、なるべく頭の中からその意識を追い出す。

熊本から高速で山口市、その後一般道を津和野に行き1泊目。益田に抜け、部分的に開業している高速道を乗り降りしながら出雲大社へ。一般道と高速道で米子市まで行き2泊目。翌朝、米子城跡、皆生温泉足立美術館砂の器の舞台・亀嵩を通って高速で広島に行き3泊目。最終日は厳島神社錦帯橋と巡って熊本に帰った。

こう書くと、随分あちこち立ち寄って中身のある旅をしたように見えるが、一番記憶に残ったのは意外にも比較的地味な場所だった。3日目の朝、歩いて回った米子城跡。そのすぐ下にある中海でボート競技の練習をする大学生たちの姿だった。

米子城は駅近くのホテルから歩いて20分ほどの場所だった。小さな丘全体が城跡になっている。登る前に下から見上げると、城跡全体がツクツクボウシの鳴き声を発しているようだった。汗だくになりながら天守台にたどり着くと、眼下に米子の街並みと中海、向こうに皆生温泉日本海。境港へ続く巨大な砂州島根半島。地図通りだ。視線を右手に移すと大山。思っていたより海に近く、山麓は海にせり出す格好になっていた。こうした全体を俯瞰できる場所は大好きだ。景色の良さを堪能できるのはもちろんだが、頭の中の地図とクロスさせて「確認作業」をしているのだと思う。大山の位置もそうだし、米子市街地と中海の位置関係もそう。そして全体を見回して、米子という町がどんな歴史や地理的条件に影響された町なのか、思いを馳せる。江戸時代にはこの先の日本海北前船が通ったのだろう。鎌倉時代の末には後醍醐天皇隠岐からこの辺りに戻ってきたのだろう。中途半端に頭の中に散らばっている知識の切れ端を総動員すると、意外と立体的なイメージが出来上がる。そんな時、私の心の中は幸福感で満たされる。

天守台でシャツを脱ぎ上半身裸になって涼んだ後、中海方面へ降りる。 

中海は海水と真水が混じった汽水域で占められる。波は穏やか。そこで大学生らが気持ちよさそうにボート競技の練習をしている。鳥取大学の学生なのどろうか。そういえば近くに医学部があった。岸辺から米子市民がぼんやりと眺めている。結構なスピードで行き来するボートを見ているとα波が出てくる。米子は決して大きな町ではないし、取り立てて名所旧跡があるわけでもない。でもすごく住みやすそうな町だった。学生時代、同じバンドメンバーで境港の出身者がおり、その友人の米子出身者にも何度かあったが、とても静かなやつらだったことを覚えている。

この旅の数年前、列車で山陰を旅したが、その時も米子が折り返し地点だった。今回もそうなってしまった。これ以上、東へ進んだら、休み期間中に自宅に帰りつけない。米子、境港のラインは私にとって山陰の越えがたい関所だ。できれば行きたいと思っていた鳥取市はやはり無理だった。もう40年ほど行ってない。あまり縁がない土地なのだろう。次こそはぜひ。

でも城跡から米子の街並みや中海を見ていると、ここが折り返しにぴったりの場所のような気もしてきた。