一人旅おやじがゆく

旅することが人生の最大の喜びである旅好きが、各地で見たもの感じたことを淡々と記します。

30年にわたる微調整

食べ物にはなぜだかほとんどこだわりがない。

特に若い頃は徹底していた。旅の間、食事といえば駅の立ち食い蕎麦や、吉野家松屋の牛丼ぐらいだったような気がする。少しでもいろんなところを回ったり、有料の施設に入ったりしようとすれば、何かを削らなくてはならない。私を迷うことなく食費を削ってきた。美味しいものはどこにいようと食べられるというのが私の感覚だ。

「街で一番と評判の行列ができる店」と「味はまあまあ。並ばずにすぐに座れる店」があった場合、私は迷わず後者を選ぶ。東京では前者がすごく多いような気がするが、私と同じ後者を選ぶ東京人は一体どのくらいいるのだろうか。私は行列というのがとても苦手だ。もちろん好きな人はいないのだろうが。それでもディズニーランドの順番待ちの行列にはどうにか我慢して並べる。しかし食事のために並ぶのはどうしても耐えられない。空腹で不機嫌になるとかではなく、「そこまでして微妙な味の差を求めるのか?」という感覚でいっぱいになり、脱落してしまうのだ。

しかし他人と一緒の場合、食へのこだわりの差は決して無視できない。ブログで何回も書いているが、大学の卒業旅行でヨーロッパに行った。成田空港から同じロンドン行きの飛行機に乗った同世代の男性と仲良くなり、ロンドンの初日はこの男性と一緒にあちこち回った。ところがこの男性、結構食事にこだわる人で、街角のサンドイッチ屋のイートインコーナーで済ませようとする私とは早々と意見が合わなくなり、その日の夕方には「じゃ、別々に回ろう」ということになった。食というのは意外と重要なカギになるのだな、と改めて思ったものだった。あの男性(名前も覚えていない)、今頃どうしていることだろう。

妻は旅に出ると結構食にこだわる。交際期間中からその傾向は熟知していた。結婚してからやがて30年近いが、このこだわりの差は今でも課題だ。お互いが相手の感覚を分かっているので、妥協点をどうにか見出しながら、ここまできた。その努力の賜物か、特に海外旅行に限定すれば、あまりずれがなくなった。例えば中国系のエリアに行った場合、迷わず「完全アウェー」の現地人御用達の食堂に入る。これは「食事なんて腹に入ればどこであろうと大した差はない」と考える私と、「現地のディープな雰囲気を味わいたい」という妻の全く方向性の違うベクトルが都合よくクロスしているのである。2年前に行った上海外灘(バンド)のホテルの裏通りにあった食堂がバッチリそんな感じで、3泊した間に2度行った。メニューを見ても全然読めないが、麺類なのかご飯なのかくらいは分かるので、店のおばちゃんに指し示してオーダーし、青島ビールをがっつり飲む。ガイドブックになど載っていない行列など関係なしの店であるにも関わらず、何を頼んでも「ハズレ」になることはない。おまけに安い。腹一杯、上海メシを食べることができて大満足であった。

ただ30年にわたる微調整を繰り返してきたにも関わらず、国内旅行では今でも時折、妻との食へのこだわりにずれが生じる。

別府に回転寿司の人気店がある。鉄輪温泉に割と近い国道沿いの「亀正」という店なのだが、ここ数年、いつ行っても行列ができている。確かに味がよく身が大きい。妻はこの店が大好きで、別府に行くと必ずこの店に行きたがる。「この時間なら大丈夫だろう」という頃を狙って行っても、すでに行列ができている。「無理だよ。別の店にしよう」と私は言うが、「私が一人で並んで、中に入れる時に電話するから」と言い出す始末。そこまでこだわられたら無視できない。九州にいると「行列に並ぶ」機会が少ない。私にとっては恵まれた環境だ。ただ最近では、鹿児島中央駅近くのとんかつの店なども出張ついでのサラリーマンたちが行列を作っているようで、油断はできない。

私の旅における食へのこだわり度もわずかだが上昇傾向にあるのだろう。ここ最近の一人旅を振り返ってみると、「立ち食いそば」や「コンビニおにぎり」は姿を消しつつあり、代わりに「チェーン店の居酒屋でビールと刺身」とか「その土地ならではのラーメン屋」が増えている。そのうち「その土地ならではの小料理屋」などの渋い選択肢が増えれば、「俺もいい具合に歳を重ねたな」と大満足なのだろうが、まぁこれはちょっと難しいかな。頭の中が真っ白になりそうで。一気に「その土地ならではのスナック」に立ち向かうのも旅人スキルアップのための絶好の鍛錬の場となるのだろうが、そこまで頑張って何か意味があるのだろうか。いやないだろう。

今日で今年も終わりである。今年も人から呆れられるくらいあちこちに行った。年明けには期待の「北京旅行」が待っている。北京とはどんな都市なのだろう。コンビニはあるのか? あるとしたらその数は? 人民服の人は皆無なのか? どのくらい乾燥した地域なのか? 北京を特集したガイドブックがほとんどない理由は? 色々と知りたい私なりのこだわりがある。楽しみだ。