一人旅おやじがゆく

旅することが人生の最大の喜びである旅好きが、各地で見たもの感じたことを淡々と記します。

九州山地の奥深くに点在する天空の集落

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八代市坂本町の日光集落

九州や四国の山深い地域には時折、山肌にへばりついたような「天空の集落」がある。

もしかしたら信州や東北地方にもこうした集落があるのかもしれないが、なんとなく西日本に多いイメージがある。

私が住む八代市にはこうした集落がものすごい数、存在する。なにしろ市域の8割くらいが九州山地だ。特に宮崎県と接する五家荘地区は1700メートル級の山々が続く。

人気番組の「ポツンと一軒家」でも、このあたりと思われる一軒家が紹介されたことがある。ただあの番組はかなり慎重で、グーグルの写真が一瞬出るものの、自治体名などは絶対に出さない。だからあの番組を見て、その家に行ってみようとしても、まず行けないはずだ。あの番組の人気はそういった「気配り」があるからなのかもしれない。

30年くらい前までは、五家荘にも結構子どもがおり、それなりの数の小学校があった。各集落とも人の気配が濃厚だった。昔から「人があまり行かない所に行きたがる」性癖があったため、車の免許を取ると同時にこうした場所に喜び勇んで出掛けていたので、よく覚えている。ただ当然ながら当時から「人の数がすっかり減って」という声はよく聞いていた。今から思えば、集落はまだ「限界」に至ってはいなかったのだろう。

五家荘は江戸時代、天領であり、秘境として知られていた。幕府の代官が時折訪れ、その記録も残っている。庄屋の支配権が強かったようで、今も仁田尾の左座家、椎原の緒方家が残る。左座家は菅原道真の子孫、緒方家は壇の浦で破れた平家の子孫、とする伝説が残っている。山の神信仰をはじめとする民俗行事も数多いが、今では伝承者不足で、保存活動が難しくなっていると聞く。

昨年、実に久しぶりに五家荘(全国的に五箇山とか五個荘など似た名前が山間部に多い)の集落の一つである久連子という地区に行ったら、すっかり人の気配がなくなっていた。一度泊まったことがある民宿は姿を消していた。90年代に整備された「古代の里」という地域振興の施設には、平日と言うことも関係したのか、だれもいなかった。30年ほど前に訪ねた時は、さすがにもっと人の気配があったし、小さな商店などがいくつかあったように思う。

「古代の里」には「久連子鶏」という天然記念物の鳥が飼われていて、その鳴き声だけが妙に賑やかだった。とても寒い日で、遠くの山の峰は雪で白くなっていた。あまりに寂しかったので、一つ俳句を作ってみた。

 

村人に一人も会えず冬ざるる

 

その一方、五家荘の真ん中を南北に貫く国道は、以前よりだいぶ整備が進み、ある意味、山深さ感は薄まっている。人は減ったが道は良くなったというのは、現代的といえば現代的である。ちなみに峠の向こうの宮崎県椎葉村は数年前、乃南アサさんの小説を映画化した「しゃぼん玉」(林遣都市原悦子が主演。主題歌は宮崎出身の秦基博)の舞台になった。ロケも現地で行われたようで、村はだいぶ盛り上がったのではないか。市原悦子の最後の映画なのでDVDで見る価値あり。

椎葉村には何度か行ったことがあるが、五家荘よりはずっと人の気配が多い(でも人口は2千人台)。五家荘も映画の舞台にでもなれば、また注目されるのだろうが。 以前は「泉村の東半分にあたる五家荘」だったが、今は「八代市の東の端っこにある五家荘」となり、存在感が薄れてしまった気がする。平成の大合併の弊害だろうか。

投稿した写真は五家荘とは関係ない、八代市坂本町にある「日光(にちこう)集落」だ。標高300メートルほど場所にあり、九州自動車道の坂本PA近くから見上げると山肌にへばりついたように見える。八代市中心部から車で30〜40分ほど。棚田が有名で、一帯は西南戦争の際の戦場にもなっている。桜を上から見下ろせる風景が気に入っており、時折訪ねている。ただ道が狭いので要注意。

八代市を始めとする熊本県南地域にはこんな感じの集落がたくさんある。いずれも限界集落か、その寸前だ。時折紹介したい。