一人旅おやじがゆく

旅することが人生の最大の喜びである旅好きが、各地で見たもの感じたことを淡々と記します。

「新婚旅行で来なよ」と東北の運転手

どうも。旅するおやじ旅生です。

時々懐かしく思い出しながらも、なかなか再訪できずにいる場所があります。

山形県の小国町。もう少し西に行ったら新潟県というJR米坂線沿いにある豪雪地帯の小さな町です。訪ねたのは大学生の頃。3度目の東北一人旅の時だったと思います。多分3年生くらいだったのかな。どんな季節だったのかも覚えていませんが、冬でなかったのは確かです。

 

訪ねた理由は「故郷熊本にも同名の町があるから」。大分県に突き出たような阿蘇北部の町です。微かな記憶を辿ると、町の雰囲気もよく似た感じだったような気がします。

国鉄の「南東北周遊券」を使って旅していたのだと思います。米沢で乗り換えて向かったはずです。(その前後にどこを巡ったのか全く記憶にありません)

あと一つ理由がありました。周遊券を使える国鉄バスが小国駅から朝日岳方面へ伸びていたのを時刻表で発見したからでした。「周遊券で乗れる範囲はすべて乗りたい」「なるべく辺鄙な場所に行きたい」というのがその当時の旅生の旅でした。

小国駅から国鉄バスに乗って北へ。旅生以外誰も乗っていなかったような気がします。とりあえず終点まで。30分〜40分ほどの割と短いバス路線だった記憶があります。下車の際、運転手に「どこか観光する場所ってありますか」と聞いたところ、運転手(おそらく40歳くらいだったのかな)はしばらく考えて「ずっと北の方へ歩いていくと朝日岳が見えるよ」と教えてくれました。

「行く当てのない旅人」を気取っていた旅生は、教えてもらった通り、風に吹かれてさらに北へ。ウォークマンサザンオールスターズのベストアルバムを聴きながら歩いたのをよく覚えています。「進軍ラッパがププププと」と原由子が歌う「流れる雲を追いかけて」が流れていました。

どのくらい歩いたでしょうか。遠くに少しだけ朝日岳(が見えたような気がします)。目の前に広がる集落はほとんどが茅葺き屋根。今で言うなら京都の美山や福島の大内宿みたいな風景でした。もちろん文化財指定を受けている集落ではなく、三十数年前の東北地方には、ああいった茅葺き集落はあちこちにあったのかもしれません。いまはどうなっているのでしょう。

それ以上先に進んでも仕方なさそうなので、バス停に引き返すことに。旅生のことだからきっと帰りのバスの時間を把握していたのだと思います。

バス停で待っていたバスの運転手はなんと先ほどの運転手さんでした。おそらく小国駅まで一往復したのでしょう。帰りのバスでは運転席のすぐ後ろに座り、いろんな話をしました。東京で大学に通っていること。周遊券で時々旅をしていること。故郷は熊本であること。今晩の泊まる宿をまだ決めていないこと。

運転手さんは山形・福島の県境にある飯豊山山麓国民宿舎「飯豊梅花皮荘」を教えてくれました(たぶん予約まで入れてくれたのかもしれません)。駅に着く前に「明日天気がよかったら、国民宿舎から南へ歩いてみて。飯豊山が見えるから」と運転手。すごく山が好きな人なんだなと思いました。

旅生は小国駅でバスを乗り換え、先ほどとは反対方向の小国町南部へ。静かな国民宿舎でした。一晩中、川の音が聞こえていたのを覚えています。地図で見たら今もあるんですね。飯豊山登山客にとって大切な宿舎なのでしょう。

翌朝、言われた通り(今もそうですが旅生はとても素直なのです。ただその従順さが裏目に出ること、多かったですが)渓谷をさらに南へ進むと、確かに飯豊山が見えました。でもちょこっと見えただけでした。

渓谷沿いを引き返すと、なんと昨日の運転手が国民宿舎の前にいるではありませんか。それも普段着。昨日のお礼を言うと「今日は休みなんだ」とか。で、その運転手の自家用車に乗って小国駅まで送ってもらったのです。

「また小国に来てよ。今度は新婚旅行でな」。別れる前、そう言われました。旅生は「それもいいな。その時は車で来ようかな」と思ったのを覚えています。

あれから三十数年。社会人になって結婚して子供が生まれて、やがて定年を迎えようとしています。30代〜40代の頃、何度か山形を旅して、割と小国町に近い米沢にも行ったりしましたが、なぜだか小国町に行く機会はありませんでした。

しかし今でも熊本の小国町に行くと、山形のあのバス運転手のことを思い出してしまうのです。「結局行ってないなぁ」「まだ元気ならあの運転手、70代かな」と。

でもあの時、なんで休みの日なのに旅生に会いに来てくれたのだろう。単に旅する若者に興味があったのでしょうか。それともほっとくと自殺でもしてしまうのではと勘違いされたのでしょうか。まさかそんなことはないと思いますが。

定年後、キャンピングカーで全国を巡る時は、山形県小国町を必ず訪ねようと思います。