一人旅おやじがゆく

旅することが人生の最大の喜びである旅好きが、各地で見たもの感じたことを淡々と記します。

酷道で思い入れある五家荘へ

どうも。旅するおやじ旅吉です。

数年ぶりに平家落人伝説が残る五家荘に行ってきました。宮崎県と接する八代市最東部(川辺川の源流地域)にあたります。全域が標高500〜1700メートルの九州山地の山深い地域。谷間に五つの集落が点在し、これらの地域を総称して「五家荘」と呼んでいます。

旅吉が最初に五家荘を訪れたのは今から約45年前、中学3年の文化の日でした。紅葉見物に両親と来たのを覚えています。谷間に這いつくばるように集落が点在しているのに驚き、落人伝説を知ってロマンをかき立てられました。当時は「八つ墓村」や「悪魔の手毬唄」など横溝正史の伝奇的な作品が人気だったので、尚更。旅吉は地元の郷土史家が書いた五家荘の歴史を記した本をお土産屋で購入。つい最近までその本は旅吉の本棚に並んでいました。

この最初の訪問で、特に心に刻まれたシーンがあります。

谷間の国道を走っていると、遠くの山の斜面に一軒だけポツンと民家があるのを発見。よく見ると国道脇からその家まで荷物を送るためらしいロープが張られています。確かな記憶ではありませんが、45度ほどの斜度で長さは100メートル以上あったような気がします。

両親と車を降りてそのロープを観察していると、家の外へ男性の方が出てきたのが見えました。「おーい」。谷越しに旅吉と父親が手を振ると、手を振り返してくれました。

「なんであんな場所に住んでるんだろう」という旅吉少年の言葉に、「よっぽどの変わり者か、何かの理由で集落を追い出されたのかもしれん」と父親が答えたのを覚えています。最近テレビで「ポツンと一軒家」が人気ですが、あの時見た一軒家は、テレビで紹介される「現代の一軒家」レベルのものではなく、秘境と言われる五家荘でもさらに隔絶された何かを感じさせました。

社会人になってからも仕事の関係で何度となく五家荘を訪ねています。

特に昭和から平成に入った頃、頻繁に足を運んでいました。そのたびに郷土史家の本から得た情報に上書きするように知識は増えました。いくつかの集落では神楽が夜通し舞われていました。そんなときは集落全員が集まって一晩中にぎわい、まさに「新日本紀行」(最近頻繁にリバイバル放映してくれて嬉しい)でした。

ところがつい数年前に仕事で訪れると、集落全体で保存していた神楽もすっかり規模を縮小し、小学校で細々と保存していました。また別の集落は、ほぼ空き家だけになり、その日とうとう住民の顔を見ることはありませんでした。

民俗学者柳田國男は明治後期、九州山地を民俗資料の宝庫と位置付けていたようですが、その宝も急速に失われつつあるのを実感しています。そもそも民俗学自体が興味を示されなくなっているような(妖怪などは別として)‥。

 

前段が長くなりました。五家荘には思い入れがあるのです。

美里町から国道445号を使って五家荘へ向かいます。ところがこの国道、来るたびに「こんなに過酷なルートだったっけ」と漏らしてしまうほどの「酷道」。先日宮崎県の西都市から人吉盆地に通じる国道219号を紹介しましたが、その比ではありません。

車一台が通れる幅の道が5メートルおきくらいにグネグネと曲がりながら、標高差約800メートルを一気に上るのです。今回、軽トラック2台とすれ違いましたが(熊本弁ではなぜか離合と言います)、道幅がわずか広い部分に何メートルもバックするなどして、どうにかこうにかやり過ごしました。

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今から九州山地に入るぞ、とやる気を起こさせる美里町から見た五家荘方面。
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五家荘へ続く国道445号線。この道幅は広い方。
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五家荘の入り口である二本杉峠近く。目の前に雁俣山。花がきれいだそうです。
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40〜50分走ってようやく五家荘の二本杉峠に到着しました。標高は1100メートル。展望台からは熊本市方面が望めますが、今回はぼんやりとしか見えませんでした。
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二本杉峠には峠の茶屋みたいな食堂があるので、旅吉は通るたびに食事をします。いつものごとく山菜うどんを注文。それほど利用客が多い場所とは思えませんが、いつもきれいに掃除されて愛想よく接客されます。味もいい感じです。

会計の時、「今年は雪が多いんじゃないですか」と聞いたら、「年末から1月末の最強寒波にかけて積雪が増えたり減ったりを繰り返し、全部合わせると1メートルくらい降ったのかも。最近ようやく道路が使えるようになりました」とのことでした。

熊本市からはこの二本杉峠あたりの山並みが望めます。確かに最強寒波の時には上半分は雪を被り、「南アルプスみたいだな」と思ったものです。

ついでに「雁俣山の頂上まではどのくらいかかりますか」と聞くと、店の女性は「40分ほどですが、今から登るんですか」と引いた表情。それを見てすかさず「いや、やめておきます」と答えました。もともと登る気はなかったんですが。変な心配をさせてしまいました。

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道端にはまだ残雪が。登山はさすがに無理でしょうね。特に素人には。
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二本杉峠からは県道を八代市中心部方面へ。

それにしてもキャンピングカーに乗って五家荘に来たのは初めてでした。横幅より高さがある車だけに、以前のプリウスアルファに比べると負担感は強かったですね。気を抜くと横転しそうな気がして、結構疲れました。
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県道を数十キロ西へ下るとようやく集落。でも人の気配はしませんでした。