旅吉です。
北国を巡る1か月旅の最後でこんな場面に遭遇した。
大阪南港を17時に出港した新門司行きの名門大洋フェリー。レストランの横にあるテレビコーナーには、「ツーリストクラス」と呼ばれるドミトリーの船客たちが、わらわらと集まっていた。個室客以外はこうした場所でテレビを見ることになる。旅吉もそう。
ちょうど大相撲の秋場所が終盤に入っていた。大の里の優勝がもう目前というあたり。しかしテレビは大相撲中継ではなく、ニュース番組になっていた。
そこにワンカップ片手に現れた胡麻塩頭の60代後半らしき男性。「すいまっせん。相撲にしてよかですか」と周りに声をかけてチャンネルを変えた。九州へ帰る人のようだ。もしかしたらトラックの運転手なのかもしれない。
テレビの真ん前に陣取り、周囲の人に「わしゃ平戸のもんだけん、平戸海が気になってなぁ」とか「豊昇龍は勝った時の顔が好かん」とか「大の里は間違いなく横綱になる」など、考えたことをそのまま口に出している。
最初は「なんだかうるさいおやじだなぁ」と思っていたけど、次第に「この人、ほんとに相撲が好きみたいだ」と好感を持ち始めた。下品さや嫌みがない。情報量がすごい。すぐ横にいた大阪の若い夫婦も意気投合して、各力士たちへの感想を盛んに語り合っている。
このおじさんの解説(?)はかなり的確で、聞いていて大変参考になる。「あ~、いかん癖が出とる。前みつばしっかり取らんば」とか聞くと、旅吉は「そうなんだ」といつも以上に中継に見入ってしまう。大相撲の解説といえば舞の海を思い出すが、このおじさんの昭和チックな生な声もいい。
この人の存在感で、テレビコーナーはいい感じの一体感に包まれていた。NHKのドキュメント72時間の取材クルーがいれば、絶対に取り上げたな。
周りの人たちをほんわか包み込む、こんな昭和な場面、久しぶりに遭遇した気がする。子供の頃は、どこに行ってもこんな場面ばかりだったけど。せせこましくなくて、なんだかいい気分になった。旅吉もそんな高齢者になりたいと思ったね。ないものねだりだが。