一人旅おやじがゆく

旅することが人生の最大の喜びである旅好きが、各地で見たもの感じたことを淡々と記します。

野性の解放を書いたコラム

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朝日新聞高橋純編集委員が書いたコラムはなるべく読むようにしている。文章に愛嬌があり、高飛車な感じがしないで、しっかり読ませる。説得力がある。

今回は官邸取材をしている時の話を題材にしている。高圧的に取材を制せられるうちに、自己規制するようになったらしく、それに危機感を持ち始めた。で、取った対策が、「はあ?」と感じたら声にすること。これを高橋さんは「野性の解放」と表現した。

「拒否反応を抑え込まず外に出せば、自分の内側に自分でラインを引かずに済む」。

なるほど見事な対応策。これ以上ないくらいの効率的なアウトプット。なんらかの方法で野性を解放していれば、負けにはならない。ある意味、最も優れた野性の解放なのだろう。感情を爆発させたり、恫喝せずとも野性を発揮する方法はいくらでもあることを改めて知った。

ただ、「はあ?」という一言でさえ、最初は相当な勇気を要することだろう。そんな時、私はいつも「蛮勇をふるう」という言葉を思い出す。時として蛮勇は大切だ。

薩摩藩士らは臆病と見られるのを最大の屈辱とした。西南戦争前夜、決起するか否か論議した士族らの行動を最終的に決定付けたのが、「死ぬとが怖かっですか」という発言だったようだ。蛮勇は薩摩士族が得意とするところであった。四十代の頃、この言葉は私を相当励ましてくれた。

コラムで高橋編集委員はさらに、映画監督の是枝裕和が語った「意味のない勝ち」「価値のある負け」にも言及。哲学者の鶴見俊輔が闘いに身を置きながらも常に「良い負け方」を選択肢に置いていたことを強調している。

最終的に学術会議の任命拒否問題に触れ、高橋編集委員は「野性の念」を送っている。

これほどまで物事を噛み砕いて書けるとは。大新聞の記者でも、いろんな葛藤をしながら仕事をしていることまで語られており、その筆力を思い知らされた。

いい文章はやはりいい。目の前の景色を違ったものにしてくれる。そんな文章が書ければとこのブログをやっているが、そう簡単に書けるものではなさそうである。