山口市はとても小さくていい町だ。西の京と言われる歴史と文化がかおる。
県庁所在地としてはおそらく、全国でも一番小さいほどではないかと思うが、規模だけでは語りつくせない気品みたいなものがある。地元の人々がどう感じているかは分からないが、よそ者の目から見ると、「こんな県庁所在地の在り方もあるんだ」と思わずにはいられない個性がある。
湯田温泉に泊まり、早朝から町中を歩いてみた。地元にいるときは何も感じないが、旅先ではどうしたわけか、通勤通学風景がとても魅力的に見える。特に小学生が訳もなく歓声をあげながら校門に向かって走っていく様子などは、見ていて清々しい。昔の子供と比べるとすっかり希薄になったものの、その地方の方言や訛りがわずかに混じった言葉で、前の夜に見たテレビ番組やゲームのことなどを賑やかに話しながら登校しているのを見ると、旅情を掻き立てられる。
山口は谷あいの細長い盆地にできた町だ。盆地の中央部分は商店街や住宅、両側の山懐は公共施設や浄瑠璃寺をはじめとする仏閣などが多い。文教地区はちょうどその間にたっている格好で、湯田温泉から1キロほど歩いた場所には、山口大学付属小学校などが固まって立っている。昔ながらの路地やその脇を流れる水路の横を子供達が通学していく。目を上げれば紅葉した木々が点在する低い里山が連なっている。冴えた空気を劈くように椋鳥の鳴き声が響く。中学校の校庭では早くもテニスの朝練が始まり、ボールを追い掛ける先輩たちを横に、まだ1年生らしき女の子が1人、飽きることなくラケットの素振りを繰り返している。ひたすら続くその動きは少しばかり胸を締め付けたが、そのひたむきさ、生真面目さがこの町にどこか似会っており、記憶に刻み込まれた。
その後、ホテルへ帰り、出張のサラリーマンに交じって朝食を済ませ、朝湯を楽しんだ。
文化薫る小都市を巡るには、やはり早朝が一番いいようだ。