一人旅おやじがゆく

旅することが人生の最大の喜びである旅好きが、各地で見たもの感じたことを淡々と記します。

信州は聖地である

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家族で訪ねた木曽路奈良井宿


誰にも聞かれたことがないが、「これまで訪ねた中でどこが一番良かったですか」と聞かれたら、「そうですね、やはり信州ですかね」と渋く答える準備だけはしている。もちろんそんな会話をすることなく、準備だけして棺桶に待っていくことにはなりそうだが。

京都もものすごく好きだ。何度訪ねたか分からない。それに比べたら信州に行った回数はもっとずっと少ない。それでもナンバーワンは信州だ。主に大学時代に訪ねている。特に3年生の秋に、長野県の中南部周遊券で巡った旅は印象深かった。新宿→高遠(泊)→南アルプスの北沢峠→飯田→馬籠(白)→妻籠木曽福島(泊)→上高地白骨温泉(泊)→松本→大糸線のどこかの駅(泊)→小海線→小渕沢→新宿、だったような気がする。北沢峠や上高地の紅葉が素晴らしかったのをよく覚えている。北国の紅葉の美しさが南国とは比較にならないものであることを知った。

その1年半後、九州から出てきた中学以来の友人を連れて、伊那谷、松本、木曽の奈良井宿を回った。駒ヶ根からロープウエイで千畳敷カールにも行った。信州にしかないアルプスの猛々しい美しさ、目を開けるのが大変なくらい眩しい雪の白さに驚いた。その帰り、駒ヶ根駅前の喫茶店で飯を食った。「信州は素晴らしい。50歳になったら会社を辞めて、駒ヶ根で喫茶店を開こう」と半分本気、半分冗談で話し合った。その一月後、社会人になった。息苦しさばかりを感じ、友人とのこの会話がいつも頭の中にあった。いつも50歳になる日を夢見ていたような気がする。

50歳になる半月前、私は名古屋から列車を乗り継いで駒ヶ根を訪ねた。東京在住のこの友人に「いま駒ヶ根にいる。喫茶店を開く歳になったぞ」と駅前からメールした。もちろん本気ではない。しかし友人からの返信は私より少し真面目だった。「今の暮らし、いろいろ大変だが、続けざるを得ない」といった感じのものだった。詳しくは覚えていない。「何を真面目に答えているんだ」とその友人をなのか自分をなのか分からないが、心の中で少しだけ冷笑した。下の娘が大学生活を始めたばかりの東京を訪ねる理由はあった。その友人と旧交を温め合うのも面白かったのだろう。しかし結局やめた。松本から上越に抜け、富山を訪ね、飛騨高山を通って名古屋の空港に向かった。

 

その後も変わらず同じ職場で働いている。何度か家族を伴い信州に行ったが、あの頃の美しさを感じられないのが残念だ。

それでも私にとって信州は聖地の一つなのである。