一人旅おやじがゆく

旅することが人生の最大の喜びである旅好きが、各地で見たもの感じたことを淡々と記します。

パッケージかフリーか

旅の楽しみ方は様々だろう。ツアーにしてもパッケージかフリーか。

妻は私の影響なのか、特に海外旅行の前は驚くべき集中力を発揮して、安くて中身が濃いツアーを探し出す。私は現地でどう動き回るか、どういうテーマで旅をくくるか、を企画する。この両方を1人でやるのは、かなり労力的に無理をする。だから2人でやってちょうどいい感じなのだ。

新婚旅行は完全なパッケージだった。私は仕事がハードな頃で疲れ気味、妻は初めての海外。成田離婚なんていう言葉が流行っていた時代だったので、安全牌を選んだわけだ。行く先は当時人気のスペイン。ツアー客は、私たち以外に若者は女性二人連れのみ。あとは全部おばさんと少々おじさん。たぶん今の私くらいの世代の人が多かっただろうが、みんなすごく年寄りに見えた。それなりに面白くはあった。新婚なので注目を集め、可愛がられた。しかしそれ以来、パッケージツアーには参加していない。結構気疲れしたのだろう。

いつも完全なフリーツアーだ。添乗員が少しでも絡むとお土産店に連れて行かれるので、空港からホテルへは必ず、公共交通機関。特に中国系の場所は要注意だ。食べたいものを食べ、行きたいところに行く。疲れたらホテルに帰って寝る。夫婦喧嘩したら別々に行動する。機嫌が直ったらまた一緒に行動する。それが我が家のやりかたである。

そういえば一度だけ、家族で香港に行った時、パッケージツアーに入った。しかし2日目には嫌になり、添乗員に断って、私たちだけ別行動をした。あの時の爽快で自由な気持ちは今も忘れない。旅はこれじゃないとね、ハハハハハみたいな気持ちを家族で共感した。変な家族だと思われただろう。

フリーで回ると何かとトラブルも多い。ハワイのバス停で下の娘が財布を忘れた。2万円入っていた。30分後にバス停に戻ったが、当然持っていかれていた。添乗員などいないから、ホテルに帰り、バス会社に連絡しようと英文を頭の中に用意して電話をしたところ、番号を押し間違えたらしく、なんとハワイ駐在の日本人の家に通じた。全く知らない人なのだが、藁にもすがる思いで事情を説明。誠実に相談に乗ってくれたが、どんなアドバイスだったかは覚えてない。もちろん財布が手元に返ってきた記憶はない。あきらめろと言われたのかも。

大学の卒業旅行はもっと盛大な失敗をやらかした。ミュンヘン寝台列車に乗り込みローマに向かった。ミュンヘンでは相当ビールを飲んでいた。しばらくするとアメリカのコーストガードが何人か同室になり、酒の回し飲みが始まった。すでに酔っ払っていた私も参加。インスブルックくらいまでは調子良かったが、やがて気分が悪くなり、何度も便所とベッドを往復する羽目に。ついにはベッドの横にも吐いた。「ジャップ」と罵られたのが今も鮮やかに耳に残る。

朝、気がつくと車窓にはイタリアの明るい景色が広がっていた。冬空の東欧やドイツを回ってきた後なので、「イタリアはこんなに明るいんだ」と、ひどい二日酔いの頭の隅っこで感じた。落ち込んでいると、「not the end of the world」と慰められた。私は、その通りだ、と言いたくて「yes」と答えた。でもこの用法は間違いのはずだ。「I see」が正しいのではないか。そんなことばかり覚えている。意外と酒で失敗が多いこれまでの人生だったが、これが最初かもしれない。

どんなに大変で疲れ果てようとも、旅はフリーに限る。苦労も思い出に変わる。旅に関しては驚くほど前向き。ただ最近では、ある程度の地域であればどうにかなるという驕りがあるので、用心しなくては。そんな年頃である。