一人旅おやじがゆく

旅することが人生の最大の喜びである旅好きが、各地で見たもの感じたことを淡々と記します。

あの刺青はすごかった

旅では「ヒョェ〜」というようなことがある。

数年前、佐賀県の武雄温泉でのこと。温泉に入ったところ、肩から背中にかけてびっしりと刺青を入れた人がいた。年の頃なら60代か。背は高めで痩せ型。ごま塩頭で、顔色はあの業界の人らしく青白い。刺青が色鮮やかな分、肌の青白さが余計に目立つ。

「関わりになりたくないなぁ」と用心して、距離をおいていた。ほかに入浴者は小学生らしき男の子が2人。浴室が広いので、特になんの問題もなく時は過ぎ、私はゆっくりと湯を楽しんだ。

ドラマは風呂上がりの脱衣所で発生した。入浴者4人がほぼ同時に上がり着替えを始めたのだが、その時、1人の男の子が突然、刺青おじさんに「ねえ、その背中どうしたの?」と無邪気に問い掛けた。

おいおい少年よ、映画や芝居じゃないんだから。いい味出し過ぎだろ。そんなことを考える一方、「やばい。俺が父親と思われはしないか」と青くなった。「おい、あんた。子供のしつけくらいちゃんとやれよ」と凄まれるのではないかとビビりまくる。

ところが、このおじさんもいい味出した。「おじちゃんはな、若い頃、元気がよすぎたんだ」。記憶が薄れてかけてるので正確さを欠いているが、こんな感じの、もっと説得力のある決め台詞をポロリと語った。「ふーん」とその男の子は分かったような分からないような返事。2人とも見事な役者だ。それを側で見ていて震え上がったり、感心している俺。作り話のようだが、実話なのだ。

それにしてもあの刺青おじさん、任侠という言葉がぴったりな感じだった。今頃どうしているのだろう。