一人旅おやじがゆく

旅することが人生の最大の喜びである旅好きが、各地で見たもの感じたことを淡々と記します。

大洲が舞台の寅さん映画を再評価

この前行ったばかりの愛媛県大洲市が印象に残ったので、ネットフリックスで「男はつらいよ 寅次郎と殿様」を改めて観た。1977年の夏に上映された第19作目。私が中学2年生の時である。マドンナは真野響子

寅さんはおおよそ全作品を3〜5回ほど見ているが、なぜだかこの作品は通しで見たのは2〜3回程度と少ない。別に作品の質が落ちるとか、マドンナ役の女優が嫌いだとかいうわけではない。それどころか、改めて見てみると、この時期の作品としては割と上位にランキングしてもいい作品であることを再確認した。

ちなみに寅さん作品の中で「この回はあまり見なくていいかな」と唯一思ったのは都はるみが出演した佐渡が舞台の31作目「旅と女と寅次郎」ぐらいだろうか。これは都はるみがマドンナ役として出演したのに違和感を感じたせいかもしれない。

大洲の町は城跡一帯が旧市街みたいになっており、その一角に「お殿様公園」というのがある。この公園の中に、大洲藩主である加藤家の子孫が大正末年に建てた国登録有形文化財指定の邸宅が残されており、「寅次郎と殿様」の中では嵐寛寿郎演じる殿様(史実とずらそうとしたのか藤堂姓になっている)の住処として出てくる。大正期の建物なのでそう古くはないが、ふんだんにお金をかけて建てた古き良き時代の建造物という魅力に溢れている。すぐ目の前には江戸時代のままの櫓(国の重文)が残り、庭には赤い山茶花がたくさんの花をつけていた。

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「寅次郎と殿様」でアラカン演じる殿様が実にコミカルで味があった。一番いいのは最後に近いシーンだ。殿様は死んだ息子の嫁(真野)と大洲の屋敷で暮らすことを望むが、実現せず、そのことをさくらから電話で告げられる。さくらの説明に殿様は「はい。はい。はい」と要領を得ない不器用な返事を繰り返す。その単純で無様な返事が殿様の落胆ぶりを見事に表現していて、切なくなる。やはり名優は違うなと思う。

この映画が上映された中学2年の頃、私は「寅さん=自分」というイメージで映画を見ていた。だから寅さんの思いに見事に同調していた。この頃が寅さん作品を一番楽しめていた時期だろう。やがて高校、大学、社会人へと歳をとるにつれ、自分と寅さんを重ねることはなくなり、平田満沢田研二吉岡秀隆といった、マドンナと最後は結ばれる不器用な男たちに自分を重ねるようになった(もちろんそんなに格好良くないですが)。そして今では、アラカンの演技に気持ちを持っていかれるようになったのである。さすがに40年以上寅さんを見続けると、いろんな発見があるものだ。

ちなみに、寅さんの作品的な評価は、この作品くらいまではいいが、そのあとは長いマンネリのトンネルに入るような気がする(それでも25作目の「ハイビスカス」は最高傑作とされているが)。息を吹き返すのは吉岡秀隆が準主役として活躍し始める41作目「ぼくの伯父さん」あたりではないか、と個人的には見ている。せっかくなので全作品を、再点検してみようかとも思う。

 ところで「お殿様公園」のすぐ横には大洲高校があった。青色発光ダイオードによりノーベル物理学賞を受賞した中村修二氏はこの学校出身で、顔写真入りの記念碑が建っていた。てっきり徳島の人と思っていたので、意外なものを発見した気分になる。私と10歳も年が違わない人であることに2度目のびっくりをした。