一人旅おやじがゆく

旅することが人生の最大の喜びである旅好きが、各地で見たもの感じたことを淡々と記します。

筑後川沿いの重要伝統的建造物群保存地区を巡る

コロナの感染拡大が続くが、たまには丸一日好きな方面を車でぶらぶらしようと、朝9時に家を出た。

なぜだか好きなエリアがある。福岡県の筑後川一帯である。

温泉があるし、古い街並みがあるし、久留米ラーメンや博多うどんのチェーン店がたくさんある。15年ほど前から年に数回、朝倉、うきは、久留米、大川、柳川などを巡ってきたが、なぜだかここ1〜2年、ご無沙汰していた。一昨年、朝倉市一帯を襲った西日本豪雨の被害が深く心に刻まれ、何となく遊びでウロウロすることに気が引けたのかもしれない。

谷筋にある築300年の民家

というわけで今日目指したのが、国の重要伝統的建造物保存地区に指定されている、うきは市の新川田篭地区。福岡県と大分県の県境に近い、標高300〜400メートルの谷筋にある山里だ。

コンビニに寄ったり、神社仏閣を見物したりしながら気ままに向かったので、うきは市の商店街に着いたのは昼前。飯が先か保存地区を見学するのが先か迷う。結局、町はずれにあった定食屋の名前に妙に惹かれて、まずは昼飯に決定。店名は「伍平太うどん」。何となくそそられる名である。木曽路あたりにあったらぴったりの名前。700円のうどん定食を頼んだら、いい感じの薄味うどんと、魚フライなどおかず満載のご飯が出てきた。働く人のための定食って感じだ。満足。

昼のNHKニュースでは、熊本県南部を襲った豪雨被害の続報が。鉄路が被災し、通学の学生たちのためのバスが動き出したという話だった。救援金を寄付した以外、何もしていない自分。うどん定食に満足している自分。罪悪感にとらわれる。熊本地震の時もそうだった。

食堂を出て保存地区を目指す。10分も山道を進むと、茅葺き屋根の建物がポツポツ見え始める。茅葺き屋根にトタンを被せている民家も多数。やがて保存地区の核となる平川家住宅に到着する。国の重要文化財である。

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中を見学しようと、奥の方にある所有者に声を掛けるが、返事がない。どうしようか迷っていると、足元をシマヘビがするするっと納屋の方へ進んでいった。

何しろ湿気が多い。ヘビが這い回るのも、もっともである。梅雨の晴れ間なので余計そうなのだろうが、谷筋の集落は日照時間が短いうえ、山の湿気が降りてくるためか、どうしても湿度が高い。それゆえ山間の神社仏閣は苔が美しい。京都・大原の三千院などいい例だろう。

結局誰も出てくる気配がないので、戸を開けて中を少しだけのぞいた(暗くてよく見えなかった)後、軒下の縁台にぼんやり座ってみた。何しろ300年前の建物である。おまけに茅はこの5月に葺き替えられたばかりだ(ネットで確認)。私の心は大変な満足感で満ち溢れた。聞こえるのは水が流れる音と蝉の声だけ。石垣が組まれた庭の一角には夾竹桃。夏の花にしてはどこか楚々としていて、この山里によく似合っていた。

 

夾竹桃茅葺き屋根の真新し

 

見たままの句である。もっと工夫の余地がありそう。

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途中の神社に立ち寄ったら、案の定、苔が立派だった。でもかなりの湿気。またヘビが現れても何の不思議もなさそうである。

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オシャレなカフェはおやじにゃ不似合い

山を下って、うきは市のもう一つの保存地区である吉井地区に向かう。

倉敷とは比べ物にならないほど知られていないが、なかなかの建造物群である。国道を通り過ぎるだけでも、明治・大正期の建物群の密度の高さに圧倒される。裏道に入ると、趣がさらに良くなり、小学生たちの「こんにちは」という挨拶も、妙に格式高いものに感じてしまう。

吉井地区は天領日田と城下町久留米を結ぶ商業の町として江戸期以来、繁栄。今の街並みは繁栄が頂点を極めた大正期に完成したらしい。いくつか見学できる蔵があるのだが、何しろ今日は月曜日。ほぼ全て閉館だった。ブックカフェとかステンドグラス専門店みたいな、古い民家を改造したオシャレな店は開いていたが、ひとり旅のおやじが入るのにはちょっと敷居が高い。「おやおやそれでいいんかい? 随分と自由さを失ったねぇ。前はそうじゃなかったけどねぇ」と別の私がささやきかけるが、今日は無視することに。

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その後、近くの原鶴温泉に入浴。お湯の質はまあまあだったが、素朴なつくりの浴場にも関わらず入浴料700円というのは、どうだろうか。福岡に行っていつも思う。「温泉だけは熊本の勝ちだな」。

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帰路に就く。

耳納連山と入道雲に思う

朝倉の道の駅から南側の耳納連山を撮ったのが上の写真。今日は東シナ海から吹き込む湿った南西の風が強かった。晴れ間はあるが不安定な天気というやつ。今日は一日、耳納連山を目にして動き回った格好だったが、常に巨大な入道雲が湧き上がっていた。南西の風が山々にぶつかって、入道雲を発生させているのだ。まるで活火山から噴煙が上がっているかのようだった。

おそらくこれが極端になったのが線状降水帯なのだろう。

どういうわけか私が好きな場所は線状降水帯に襲われやすい。筑後川一帯もそうだし、球磨川が流れる人吉盆地もそう。共通しているのは南北に山々があり、東西に平地が開けている。もしかして、これは線状降水帯の発生に影響しているのだろうか。誰か教えて欲しい。

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道の駅近くに有名な三連水車があった。その向こうには耳納連山。思えば今日一番印象に残ったのは入道雲が沸き起こる耳納連山だったのかもしれない。

最後に気づいたことを一つ。福岡県南部を見た場合、以前紹介した八女市と今回訪ねたうきは市に2カ所ずつ国の重要伝統的建造物群保存地区がある。なぜか集中している。というか熊本県に1カ所もないことを考えれば、集中し過ぎ。これってもしかして、両市の教育委員会に熱心かつ優秀な職員がいて、地区指定に大きく貢献しているということだろうか。こういうのって、誰かが必死こいて動かないことには指定を受けられないと個人的には見ているのだが。