一人旅おやじがゆく

旅することが人生の最大の喜びである旅好きが、各地で見たもの感じたことを淡々と記します。

山道を歩きながら俳句を考えた

どうも。旅するおやじ旅生です。

夏目漱石が第五高等学校(今の熊本大学)の教授だった明治30年末、同僚と歩いた金峰山の山道を旅生も歩いてみました。漱石一行は熊本市内からこの山道を辿って有明海に近い小天温泉(玉名市)に向かい、その時の旅の記憶を題材に9年後、小説「草枕」を書いています。

初期の名作とされています。ただ「吾輩は猫である」「坊っちゃん」「こころ」などに比べると有名ではありません。「山路を登りながらこう考えた。智に働けば角が立つ。情に竿させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい」という出だしは割と知られているものの、その後どういう展開となり、何を訴えているのか、知らない人の方が多いのではないでしょうか。

旅生も何度となく読んでみましたが、実は最後まで読み切ったことがありません。

かなり難解なのです。ストーリーの展開より、「近代化する明治の日本」への漱石の複雑な思いを表現することを重視している感じです。「俳句的な小説」という評価もあります。「なるほど。そういう目で読めば面白いかも」と思いましたが、その評価の意味するところは結局分かりませんでした。高校の「現代国語」で苦労した時を思い出しました。

まぁそれは置いといて、久々の透き通った青空、朝の気温も20度くらいに落ち着きました。蒸すばかりで雨天曇天が続いた今年の夏を忘れさせてくれる、ほんとに久しぶりの好天に誘われ、峠の茶屋を目指して山道を歩きました。明日締め切りの俳句を作りながら。

山麓の島崎地区に車を止めて出発。町外れの住宅街を歩きます。旅生が子供の頃からあった雑貨屋はすでに閉店し、ただの民家になっていました。やがて舗装道路から分かれ、明治以前の山道が残るエリアに。熊本の里山らしい黒々とした照葉樹林が続く中、ゼイゼイ言いながら登ります。この山道を漱石先生も歩いたのかと思うとちょっと感慨深くなります。

麓ではツクツクボウシが盛んに鳴いていましたが、標高が上がるにつれその声も少しずつ小さくなり、風もちょっとひんやり。何より澄んだ青空に山の稜線が映えて美しく、「まだまだ暑いが、もう秋なんだ」と実感するわけです。
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峠の茶屋公園の周辺には漱石の句碑がいくつか。漱石は小説家としてデビューする以前、親友の正岡子規と東京帝大時代から俳句にのめり込み、熊本で暮らした頃までかなりの数の作品を残しています。

下の写真は漱石の代表的な句の一つ。「木瓜咲くや漱石拙を守るべく」。旅生はこの句、あまり好きではありません。「不器用な自分というものに拘りたい」と言う主張が鼻についてしまって。でもまぁ、明治人にしてはこの感覚珍しかったのではないでしょうか。

ちなみに漱石の好きな句は「菫ほどな小さき人に生まれたし」です。可憐でいいですね。まぁこの句も自分自身に溺れている感は否めません。生意気かもしれませんが、俳句はやはり子規がずっと上のような気がします。漱石は散文の人なのだと思います。

この句碑の横には、つい数ヶ月前に亡くなられた半藤一利氏(作家でジャーナリスト。漱石は義祖父にあたる)の解説板があるので、この句碑も氏の文字かもしれません。
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出発から1時間半で「峠の茶屋公園」に到着。ここにも句碑。この句は初めて知りました。

さて売店で何か買おうとか思ってポケットに入れておいたマスクを探すも見つからず。どこかで落としてしまったようです。感染防止を徹底している店のようなのでマスクなしで入るわけにもいかず、諦めて早々に下山することにしました。
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帰り道。山道からは熊本市の中心部とその先に阿蘇の外輪山が見えました。よく見ると熊本城も。人口70万人。程よい大きさなのかもしれません。高層ビルがないのは熊本城天守閣を越える高さは規制されているためです。このあたりの感覚、大事にしたいものです。
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麓は細川藩の時代から「城下の外れの静かな場所」だったみたいで、お寺や湧水池が点在する環境のいいエリアです。下の写真は曹洞宗岳林寺。
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出発時に「今日は俳句を十句作って帰ってこい」と己に課しました。その中から2点を。正直出来悪し。月並み以下。謙遜ではありません。残念ながら。

 

冷ややかな心を溶かす水の音

柿の木の下の駄菓子屋いま車庫に