一人旅おやじがゆく

旅することが人生の最大の喜びである旅好きが、各地で見たもの感じたことを淡々と記します。

進むべき道いばらの道

今の職場もあとわずかとなった。

きょうは久しぶりに土曜出勤をしている。旅吉の職場はあまり曜日に関係なく動いているのだが、ここ数年の旅吉の仕事はウイークデーに働き、土日休みというのが基本。

曜日があまり関係ない職場とはいえ、土曜は土曜らしさが漂っていることをあらためて実感した。人数はそこそこいるのに、なんとなくみな少しテンションが低めで、どことなくシーンとしている。旅吉はこのくらいのテンションが実は好きなのだ。

そんなフロアを見渡しながら、退職の日、自分はどんな顔をしてあいさつをして回るのだろう、とイメージしようとする。

でもなかなか実感を伴った映像が出てこない。

例えば今、旅吉から5メートルほどの場所に座っている50歳くらいの後輩。会社における接触の濃淡から言えば「究極の淡」だ。見た目が渋く、ドスの利いた雰囲気をまとっているので、旅吉からするとハードルの高さを感じてしまうタイプ。

そんな男が「今日までお世話になりました」という旅吉のあいさつに何と答えるのだろう。想像すらできない。

さっき目の前を通り過ぎた一つ後輩の男。若い頃はまぁまぁ仲が良かった。マイルドだが合理的で切れ者。「旅吉さん。何考えているんですか。あと1年なのに」と最後は苦笑されてしまいそうな気もする。

話は飛ぶが、昨日、横山秀夫という作家の短編「看守眼」を読んだ。

読み始めて知ったのだが、なんと定年退職を目前に控えた警察官たちを題材にした小説だった。若い女性職員が社内報(署内報?)へ退職者たちに一文を書いてもらうため奮闘するのだが、警察人生のほとんどを留置管理の看守係として過ごした男だけがどうしても書いてくれない。

「おれはいい。特に書くことはない」。刑事への登竜門として看守になったものの、結局刑事になれなかった男。退職前の長期休暇にもかかわらず、看守人生で培った勘で未解決事件を追い続ける。夢が夢のまま終わってしまった男、それを明るく支えた妻…。そんな事情を知りながらも男に必至に食い下がる女性職員…。

旅吉の場合、小説のように熱くドラマチックな会社生活ではなかったが、どこかしら思いが重なり、ぐいぐいと引き込まれてしまった。

そして今更ながら一つ気付いたことがあった。

「自分は社内報に定年退職者として載ることはないんだ」

まぁそれでもいい。そんなことを気にしてたら早期退職などできない。

1年間の年収を捨てて、「お疲れ様でした」というねぎらいの言葉も投げうって、1年早く「(自分なりの)自由」を手にしようとしているのだ。

かっこよさげに書いてはいるが、やはりいばらの道ではある。

ただ、いつもそうやって進むべき道を自分で決めてきた。

いかん、きょうの旅吉は気張りすぎだ。